癌以前：その３

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  素朴な味ってのはいいわねえ。

  いきなり何ね。

  いえね。奄美大島のお土産にもらった甘いお煎餅がとっても美味しかったの。

  ふうん。

  形は六角形。佐世保の九十九島煎餅に似ているけど、ピーナッツも入っていないし、あんなに甘くないわ。ほんわか甘くて飽きが来ないのよ。

  奄美大島なら、黒砂糖ば使うとるとやろ。

  そう。ちゃんと材料が列記してあったわ。
『小麦粉、黒糖、砂糖、卵、重曹』
  シンプルで素性もわかってるものばかり。それにベーキングパウダーじゃなくて『重曹』というのがいいじゃない。

  昔懐かしい味か。グルメ、グルメの世の中だから、ほっとするやろ。

  ああういう素朴な味のものを食べていれば、成人病も少しは遠のくような気がするわ。

  言えてる。ばってん、昭和二十年代までの日本人の栄養状態が必ずしも満点じゃなかったとよ。ほら、青っ洟垂らした子供が多かったけど、あれは蛋白質不足。それに加えて塩分過多の食事で、脳卒中や胃癌が多かったやかね。要するに栄養不良だったけんねえ。

  今はグルメ高じて栄養過多。結局、これも栄養不良でしょ。ただ、現代は健康食品だのサプリメントが大流行。

  おっしゃる通り。金儲けが見え透いとるばってん、食生活の変化はもうどうしようもなか。サプリも仕方んなかさ。あんたも使っとるやかね。

  うん。でも、よく出どころを調べないと、チョッピリしか成分が入っていないものを掴まされるわ。

  バカ高くても売れるけん、買う方は用心せんといかん。ああ、面倒くさ。

  それに宣伝文句が通り一辺じゃないの。
  『アレを食べれば癌にならない』
  『コレを飲めば血がサラサラだ、癌も予防できる』。

  嘘じゃなかろうばってん、そういうものを日常的に摂取できるか疑問たい。

  そうなのよ。例えば、
  ・緑茶がいい。
  ・コーヒーを飲む人は肝臓癌に罹りにくい。
  ・コレコレのお茶は血を綺麗にする。
  と紹介してもらっても、それを全部、毎日何杯もとっかえひっかえ飲めるもんじゃない。第一、三日と続かないわよ。

  ウチは日本茶しか飲まん。

  いくら癌に効くと言っても、手に入りにくいとか、値段が高いんじゃ、役に立たないわ。

  結局、人間が日頃食べるものは、手に入りやすく、そこそこの値段で買えるものじゃなけりゃ、長続きせんさ。

  それに、サプリメントも普通の食生活がきちんとしてなくては、無意味でしょ？

  あったりまえやかね。毎日の生活のリズムがきちんとしとらんば、サプリを摂っても無意味さ。

  食べて、動いて、しっかり眠って。

  それが基本。土台がちゃんとしとらんば、家は倒れる。皆、理屈はわかっとると。

  わかっちゃいるけど、実行しない、できない。あげく、悪しき習慣が身につく。

  かく言う私らだってそうたい。

  そうだわ。私なんか、風邪引いて家にこもる日が続いて、散歩をサボるとてきめんにコレステロール値が上がる。

  ウチは、禁煙に必死こいとる。

  いろんな健康番組をテレビなんかで見て来たけど、結局、昔から言われていることに辿りつくのよ。満遍なく食べるとか、身体を動かせとかね。

  要するに、人間は動物ってことさ。

  癌を心配する前に、日頃の生活のリズムを正すこと。特に母親は子供に叩きこまなくちゃね。

  まーったく。

  さあて、そろそろ寝ましょうか。健康的生活をしなくちゃね。

  そうしましょう。そうしましょう。じゃ、おやすみ。