要約すると
癌？
もしも癌と言われたら、あなたはどう反応するだろうか。
こんな例がある。春先のこと、スーパーで久しぶりにご近所の奥さんに会ったとき、ご主人が大腸癌で入院中と知ったのだが、入院まで半年ほどかかったというのである。
ご主人は五十代半ば、奥さんは少し若い。
ご主人の癌は早期ではないようで、放射線と抗癌剤で癌をできるだけ小さくして、手術はそれからだという。
昨年の秋に健康診断で大腸癌の疑いありと言われたのに、ご主人は頑なに精密検査を拒んだそうだ。
でも奥さんは諦めなかった。癌のことを知ろうと講習会に出たり、本を読んだりして勉強し、機会あるごとにご主人に検査の必要を説いた。
それでもご主人は耳を貸さない。成人した息子さんたちからも話してもらってもダメ。時間はどんどん流れていった。
年も改まった頃、ご主人は風邪をひいて寝込んだ。風邪が治ったころ、「病院に行ってみようか」と言い出した。
「たぶん、気弱になったのよね。私はこれで病院に連れて行けるって、本当にほっとしたのよ」
だが、それからまたひと波乱あった。精密検査を受けた病院の医師が問題だったのである。医師は大腸を全部取ると言ったそうである。
これには彼女も絶句。ご主人でさえ驚いたそうだ。胃や小さい臓器、子宮などの独立した臓器なら聞くが、大腸を全部取るとは、本当だろうか。
奥さんはセカンドオピニオンを申し出た。するとその医師は実に嫌な顔をしたそうである。でも奥さんは強引にカルテやレントゲンフィルムなどを貸し出してもらい、癌専門の病院へご主人を引っぱって行った。
彼女の熱心さが幸いしたのか、実力ある医師にめぐり遭えた。そして、全部大腸を取るなどとんでもない、今はいろいろな方法が可能だと知った。
このとき、あんなに頑固に癌を認めたがらなかったご主人も、この医師にすべてを委ねる気持ちになったらしい。
この例は本人の現実逃避である。
私に言わせれば『気が小さい』人間のすること。でも、結構そういう男性はいるそうだ。順風満帆な人生を送って来た人に多いのではないだろうか。
癌をある程度覚悟していても、実際に「癌です」と言われれば、動揺するだろう。医師でさえ自分が癌とわかれば人によってはがっくりしたり、パニックに近い状態になったりすると聞く。
だが、たとえ最初は何も考えられなくても、知人の例のように三ヶ月以上も放っておくのは考えものだ。
なぜなら、癌細胞の増え方は右肩上がりの直線ではなく、倍倍ゲームで増え、癌のステージは階段をのぼるようにランクがあがって行くからだ。
一段あがるのにおよそ三ヶ月と見る。
この数字は癌と判明してから三ヶ月ではない。癌と解ったとき、段のどのあたりにいるかは不明だからだ。あと少しで次の段に行くところかもしれないし、真ん中あたり、あるいはもう少し手前かも知れない。
私の場合、早期だったから術前の治療はなく、手術日は癌と診断されてから一か月以内に手術という決め方だった。
実際はギリギリひと月後だった。医師はもっと早くにしたかったようだが、子宮筋腫の患者さんで混んでいて無理だったのだ。
乳癌や子宮癌の場合、女性のシンボルを摘出するのにこだわる人も多いらしい。
もし私がそういう人間だったら、早期で手術ができたか疑問である。癌は子宮粘膜のほぼ全体に広がっており、遅れていたら子宮の筋肉層へ浸潤し始めていたかもしれないのだ。
会社や学校の健康診断で精密検査を受けるようにと言われたら、まずは受けてみる方がいい。何事もなければめっけものだ。
癌だったとしても慌てることはない。どの段階の癌なのか、どういう治療が可能なのか、冷静になって医師の説明を聞くべきだろう。
もうひとつ大事なことは、医師を選ぶこと。その医師と信頼関係を結べるかどうかは大事なことである。
人任せではいけない。自分の命に関わることなのだから、自分で調べ、探すべきだろう。
ご近所の奥さんは、何事にも一生懸命な人である。めそめそせず、果敢にご主人の病気に立ち向かったといえる。
「きっと、ご主人はあなたに感謝しているわよ」
私はそう言ったものである。
ひと月後、ご主人は手術を受けた。そして、現在は完全復帰ではないものの、仕事に戻っているそうだ。
おそらく追加治療として抗癌剤の投与や、頻繁な検査があるのだろうが、寝たきりの病人ではない。それが可能なのが現代の医療である。
癌撲滅というスローガンは、癌細胞の何たるかを知ると、少々ピント外れのようだ。
癌細胞を見つかった時点で凍結し、それ以上増やさない治療も行われている。だから、「癌イコール人生の終わり」ではないことを知るべきである。
06/10/09
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