・必要充分条件
無事に帰れた？
最終便が取れなかったのが幸いして、羽田空港もスイスイ、こっちに着いてもスイスイと帰って来れた。
そりゃよかったわ。
しッかし、長崎は暑か。汗のダラダラ出てくる。そっちは涼しかったぁ。
でも、気温は大差ないのよ。長崎の方が低いことはよくあるわよ。こっちがしのぎ易いのは、湿度が低いからだと思うわ。つまり、暑さの必要充分条件のうち、充分条件が違うってわけ。
あんたの家じゃ朝から29℃もあったけど汗がダラダラってことはなかったばってん、湿度が低かったからか。
でも猛暑は猛暑よ。熱中症患者が急増したってさ。
そうそう。あんたの家に着いたとき、救急車の来とったばってん、患者さん、どげんなったやろね。
何も聞かないから、亡くなってはいないでしょうね。熱中症で意外なのは、屋内にいて罹る人が多いってこと。
年寄りが多いやろ。歳を取ると感覚が鈍くなるけん、温度が上がっても暑いと思わんとさ。で、気がついたら脱水症状でアップアップになっと。
テレビの天気予報で『熱中症に罹らないように注意してください』とか『水分補給』とか言うけど、水を摂ればいいってもんじゃないでしょ。
塩分も要るさ。そうせんと『水分補給』の必要充分条件を満たしてはおらんと。
昔は汗をかいたら水分と塩分を補うというのは常識だったけどね。ホラ、塩をなめるとか梅干しを食べるとか。今じゃ、ペットボトルのお茶とかジュースがすぐ手に入るから、塩分のことを忘れてるのね。汗をかけば塩分も出て行くのにさ。
私ら医者は水分と塩分が要るのは当たり前だから、塩分のことをことさら意識して言わんのかもしれんね。
高血圧とか胃がんには塩分が良くないから、塩分が悪者にされたのも影響してるのかなあ。ホラ、ふた言めには「塩分控えめ」とか「減塩」とか言うじゃない。
なるほど。あり得るかもね。
先日、テレビで言ってたわ。180ccの水にひとつまみのお塩と５つまみの砂糖を溶かして、お風呂に入る前後に飲むと、脱水症状を防げるって。砂糖は塩分の吸収を促進させるためだそうよ。
なるほどね。
で、思い出したのは『命の水』。さっき言った割合で塩と砂糖を入れた水のこと。難民キャンプなんかで飢餓状態とか弱った子供にまず飲ませるのがこの『命の水』なんだって。
なんか別世界の話だよね。
日本じゃ水分補給なんて自動販売機ですぐに買えるというのが常識だものね。そのくせ、肝心な栄養とか塩分の必要性とか、昔の常識が常識でなくなってきたわ。モノ溢れて命危うし、か。皮肉だわね。
ま、とにかく私らは昔の常識を覚えておるから、まだよか方たい。
そうね。でも、あんたは明日からまた仕事。無理しないでね。