反 応
ねえぇ。聞いてよ。
久しぶりやね。どげんしたと。
先日、マンションの管理組合の定例会があったの。私も今年は理事だから出たのよ。
ふん。そいで、どげんしたと？
中庭の高い木のことで苦情が出ていて、私も個人的に理事会で言ってもらうように頼まれていたの。毎年、秋になると中庭の高い木の枝を落とすのに今年はなぜやらないのかって。実は植栽の内容変更で枝落としは２年に一度ということに決まってたの。
なるほど。
苦情の投書が２通もあるので、理事長は紹介したんだけど、形式だけ。
苦情が出れば対処せんばねえ。
でしょう？ 私さあ、どういう風に話を持って行こうかと考えたわよ。高い木は落葉樹なんだけど、まだたっぷり葉がついているの、だから一階の住居は陽が刺す時間が短い。そして、専有の庭やベランダに落ち葉が溜まって困る。でも、どちらも男の人にはピンと来ないことでしょ。男の人は昼間は会社だもの。
でも、日照権はどこでも大問題になるたい。
私は、日照時間が減るということは、健康にも関係するんじゃないかと思うのですが、と言ったの。ところが、皆、無反応。
想像はつくね。
理事長は、２年に一度にすると決めたのだから来年のことにしましょう、だとさ。
ひどかね。
ところが、ありがたや。援軍が現れたの。三十代の男性。奥さんたちの間では植栽の内容変更はものすごく評判が悪い、自分も１階に住んでいるので苦情がよく来るって。
そいはよかったね。
それでも、理事長は話を聞くだけ。でも、面白いことにそこからいろいろな意見が出始めたのよ。その揚句、何と10月の除草が管理会社の手落ちでまだやっていないと理事長が言い出したの。つまり、今から発注すれば、中庭の高木の伐採も可能なのよ。
理事長はそれを隠していたってわけかね。
というより、とにかく面倒なことはイヤという印象だったわね。でも、発注をかければ大丈夫とわかったら、隣の男性が私に「それなら伐採すればいいじゃないですか」と言うの。そして一座の空気も枝を落とせばいいじゃないかというものに変ってしまったのよ。なのに、まだ理事長は動こうとはしないような感じだったわね。
ふーん。
それで私はもう一度口を挟んだのよ。
何て言うたと？
今度の冬も暖冬らしいから、全部の葉が落ちるのは１月も末になりそうです。風が強いと落ち葉が廊下やエレベーターホールに溜まってしまいます。するとここは掃除が行き届かないマンションだと見なされて、資産価値にも響くのではないでしょうか。
なるほど。
そしたらね。理事長が座り直して、驚いた顔をこちらに向けたわ。苦情を取り上げないとどういう結果になるかようやく理解したのよ。
自分にもおおいに関わるとなると即、反応か。
そう。で、流れがいきなり変って、中庭の高木伐採実行ということになったの。
そりゃよかった。『資産価値』が効いたね。お手柄たい。
エヘヘ。実を言うと、そのことは管理人さんの話の受け売りなのよ。
でも、結果が出たけん、やっぱお手柄たいね。
私が釈然としないのは、健康に響くということには何の関心も払わないこと。落ち葉を掃いたこともない男どもには、それが腐敗して虫が出たり、臭い匂いに悩まされたりして自分たちにかえって来るなんて考える人は殆どいないんだね。情けない。
そりゃそうさ。病気になれば、健康保険で安く、高度な治療を受ければいいってなもんさ。
健康より資産価値が大事なのね。子供が育ってしまって老後に入っているもんだから、子育て最中の住人のことなんか頭にないのよ。もっぱら、自分の関心の向くものばかり一所懸命。つまり、即お金に結びつくことばっかり。
戦後の日本人が目指したものがそれやもん。男の人たちにはそういう思考パターンが染みついとるとさ。いや、男も女も同じ！
このマンションの管理組合とか、自治会でもそれが如実に顕れるか、ぞっとする。
そう、カッカしなさんな。とにかく、あんたが頼まれていたことは問題解決したけん、よかったやかね。
そうだわね。ま、とにかく、ぶちまけてスッキリしたわ。じゃ、またね。
おやすみ！