・料理の腕
ところでアンタ、夕食は何ば作る予定ね？
うーん。晩ごはんねえ。
今日は土曜日たい。そろそろ買いものにいかんばけど、あんたの献立ば参考までに聞こうかなと思うたとさ。
なるほど。でも、説明に困るわ。何しろ、料理の本に載っているような、ちゃんと名前のついたものなんか作らないもの。
あんたの得意の創作料理か。ばってん、去年の夏、あんたの家に泊ったとき、夕食は美味しかった。
そう？ またいらっしゃいよ。食べる人がいると嬉しいもの。
私が考えとるとは、ポテトサラダ。おおめに作っとけば、朝のトーストに挟んでもよかろが。
カロリー、高そうね。
脂肪のつきにくいとかいうマヨネーズを、それも少なめに使うさ。
私だったらヨーグルトをまぜてマヨネーズの量を減らすわ。それから、お味噌をちょこっと加えると味が引きしまる。お醤油をたらしてもいいわよ。
ヘエー。
マヨネーズを使わないで、アツアツのポテトやニンジンにフレンチドレッシングをかけるのもいいわよ。熱いうちにかけないとダメよ。味がしみこまないから。酢が利いてさっぱりした味になるわよ。
ふーん。
あんた、ドレッシングを作るのが面倒なんでしょ。買うの？ 自分で作れば、油の量を減らせる。赤ワインとかワサビとかすりゴマとかを混ぜると複雑ないい味になるのよ。
あんたはそういうのが得意やもんね。
絵の具をいろいろ混ぜて色を作るみたいに、あれこれ試すのって面白いわよぉ。
まあね。
その口ぶりじゃ『聞くに留め置き候』だわね。で、ポテトサラダの他は何にするの。蛋白質は？
豆腐。もう、家で食べるときはそれでよかと。でなければ、魚が新鮮だから、焼くだけで美味しい一夜干しがあればそれにする。
ああ、羨ましい。生きのいい魚なんて、こっちじゃなかなかだし、高い。まだ長崎にいた若い頃、お魚屋さんであれこれ物色するのが楽しかったなあ。
私は魚は自分では扱わんさ。安く食べさせる店のあって、そこに行くと。そこはいつも決まったメニューじゃなくて、その日その日のいい魚ば出してくれるけんね。
いいなあ。
そりゃ、土地柄の違うもん。それに私はまだ悠々自適じゃなかけん何でも自分で作るヒマのなか。退職したら、ちゃんとするッ。
おんや、まあ。そうですか。
信じとらんな。
ウン。私は悠々自適になる前から、ううん、子供の頃から料理の工夫が好きだったもん。でも、あんたはどう見ても台所仕事が好きってな人じゃない。食材の栄養に関しては医者にしちゃよく知ってるけど、実践となると、イマイチ。
言うてくれるたい。
ウフフ。だって本当のことだもの。
本当のことを言うてよかことと悪かことのあっとよ。まーッたく。
ゴメン遊ばせ。あんたは医者になっただけでなく、自宅にずーッといたから料理をする必要がなかったもの。若いときに家族のためにご飯作りをしていないから、料理が習慣づいてないのよ。でも、男の人みたいに毎食外食じゃないから、まだいい方ね、きっと。
こりゃまた、ありがたいお言葉で。
悠々自適になったら、またお料理談義でもしましょ。
まーったく。何ちゅう人ね。
美味しいものが出来ますように。
ハイハイ。