ああ、老化
元気にしとった？
あーら。久しぶりィ。
ところでさ、老人の自動車の運転免許をどうするか。やっとこさ、対応を検討し始めたようやね。
元気な老人が増えたといったって、いつまでも安全に運転ができるとは限らないのに、どうしてもっと前から対策を考えなかったのかしら。
大事故だの、老人が運転していて事故を起こす数が増えて、初めて気がつくと。それが世の中たいね。
路上駐車のチェックだってさ、厳しくしたはいいけど、駐車場が絶対的に足りないんだってさ。やることがトンチンカンというか、順序が違うのよねえ。
しかし、老人がいつまでも車を運転するのは怖か。自分はボケてるとは思わんで、好き勝手に運転するようになるもんね。自分じゃ規則ば守っとると思いこんどらすと。冗談じゃなか。
高速道路を逆方向に走ったお年寄りがいたよね。
これからもっととんでもない事故が増えるよ。
団塊の世代がぞくぞくと定年になって、爺さん婆さんになるもんね。
元気な老人も増えるけど、認知症の老人も増えるさ。あッたり前の話。
外を歩いているとき、こっちがいくら注意していても、相手が自分の世界に埋没した老人の運転じゃ、事故に遭う確率はすっごく高くなるわよ。
去年、友達の弟さんにちょっと家の修理ば頼んだときのことだけどね。急に足りないものが出て、ホームセンターに自動車で買いに行ったけど、待てど暮らせど帰って来なさらんと。
どうしたの。
ちいとボケた爺さんが運転する車が、一時停止せんで、横合いの道からいきなり出て来たとって。
ひどいわねえ。
警察も出てきたとけど、その爺さん、いくら話しても自分が悪いことが理解できんとって。とにかく話にならんし、手間どってしまったって言うとった。
これから、そういうのが増えるよ。特に、爺さんたちってのは退職しても自分がまだ権力を握っていると錯覚してるのが多い。人の言うことなんか聞きやしない。
既得権益っちゅうものが躰の芯までしみついとるのも多かよ。これは何も爺さんに限らんけどさ。権利の主張ばかりして義務なんてものはこれッぽッちも考えんできとるけんね。
私の知り合いに、いつまで運転するつもりかって聞いたら、何て答えたと思う？
「自分で運転していて、『あ、まずい』と感じたらやめる」
でもねえ、本当にボケたら「あ。まずい」なんて気がつかないでしょうが。その人、肝心なことが分かってない。自分がボケるかもしれないなんて、想像してないのね、きっと。
あんたねえ、世間一般はそういうもんよ。だから、問題になっとさ。しかも、我々の世代はいつも人数が多くて目立つから、さらに問題が大きくなって、非難される。
私の親戚には、家族から言われて八十歳ですっぱり運転をやめた人もいれば、娘たちが言っても聞かない叔父もいる。自分が死ぬだけじゃなくて他人を巻き添えにする可能性が高いから、困るんだよね。
でもさあ、団塊の世代の人口が多いのは、最初からわかってたことやかね。今さら2007年問題って、遅かとさ。
一方で2007年マネーって、もみ手して待っているのが経済界。私には、そんなお金、ない。私は『Ordinary People』じゃなくて『Poor Woman』なんだもの。
あんたは本当に貧乏人じゃなか。住む家はあるし、この四年間、働かなくても暮らしとるやかね。
そういうのを、建前と言うのよ。
ばってん、本当のことやかね。お金は適当にあるとが一番。
あんたに言われたくない。でも、ごもっとも。
そうやろが。ま、とにかく、これからは外へ出たら、老人の運転する車には注意して歩きましょ。
2006.6.27記